遅まきながら、やっと自分もギアが上がってきた感覚を覚えた。昼食はブール・ノワゼットでフォアグラのスープに鯛を食べた。前菜・主菜いずれもコリアンダーが効かせてあるカレーを一瞬彷彿とさせるような味付け。もう一種類香辛料が入っていたように感じたが、何だったかは判らなかった。
午前中はラ・フルート・ガナのバゲットを齧り、シュクレ・カカオの前でタスカンとタルトレット・オ・プリュノーを食べ、ア・レトワール・ドールではべルナションのタブレットを買いこみ、デ・ガトー・エ・デュ・パンではタルト・シトロンやミルフイユ、サントノレ・オ・ショコラを買った。プラス・ディタリー駅前でマルシェ・ド・ノエルのシャレーを。今年初めてみる雪はパリだった。その雪の舞う中でジェラール・ミュロ2号店、カイザーの支店、ローラン・デュシェーヌを周る。パリに来てから毎日繰り返される目まぐるしい一日と何も変わらないはずなのに。
そんな今日一日の締めに相応しい出会いと時間が生まれたのが、シェ・ミッシェル(Chez Michel)。治安が悪いと評判を聞いていた北駅(Gare du Nord)すぐそばの人気ブルターニュ料理店。ジビエをこってり堪能できる素晴らしい店だ。
訪問した時は「昨日の予約だった」と言われたようで、「え?…ここ駄目なの? 今から何処か別の店に行かないといけなくなるのか…」と一瞬戸惑ったが、「ああ、まあいいよ!空いてるからYOU入っちゃいなよ!」みたいな具合(ノリ)でどうやらOKらしく(そこらへんのフランス人気質が今現在でさえもよく判らないのだが笑)地下へ案内された。行ってみると、きっちりと6人座れるテーブルが空いているではないか。オレらだろ?(笑)って思ったわけだが。
といっても、事前から治安があまりいいとは聞いていなかった北駅(Gare de Nord)のそばにあるとはいえこのブルターニュ料理店は昼夜それぞれ二回転させる人気の店。フリーで訪れて6人席をおいそれと確保出来るはずがないと思うので、おそらくセルベールの記憶違いだったのだろう。ホッと胸を撫で下ろした。でも、こんな瞬間でさえ楽しい。
お店にはキュイジニエ(キュイジニエール)と思しき日本人女性の方がテーブルでサービスしてくれた。昼のブール・ノワゼットも日本人率高かったし、ア・レトワール・ドールには日本人女性スタッフさんがいるし、デ・ガトー・エ・デュ・パンでは日本人男性と居合わせるし。今日はどういうわけかよく日本人に出会う。

ムニュは黒板に書かれていたが、びっしりと書かれていて、何がどうなのかよく判らなかった。自分はアントレ(前菜)に豚足のカルパッチョ/Carpaccio de Pieds de Porc、プラ(主菜)に青首鴨/Canard Colvertを注文。他の方の山鳩なども食べさせてもらった。東京にいると牛、豚、鶏以外の肉を食べる機会がなかなか無いので、ジビエは貴重な経験になった。
さすがにややクセがあるというか、何と言うんだろうこれが野生の味わいとでも言うんだろうか、東京で慣れ親しんでいる肉類とは違う野生的な香りがあって、慣れるというところまでは時間がかかりそうに感じたが、トリなのにトリ肉とは一線を画す?肉厚な噛み応え。同じトリでこんなにも違うとは。見た目も肉質も打って変わる。いろいろ食べてみるものだな。

春先にイタリアンレストランでエゾシカのグリルを食べる機会があったのだが、まったく臭みもなく食べやすかった。だが、先日気まぐれで買ったラム肉は相変わらず独特の臭いがあり、いろいろ工夫したものの、しくじった。マトンはハマれるのだが、ラム肉はまだまだ自分にはハードルが高い。ましてやジビエとくれば、もっと食べ慣れていかないといけないなと。肉にもいろんな臭いがあるという話で少々脱線してしまった。
先だってこのブログでも掲載したが、この後日食べることになる肉料理専門店のル・セヴェロのフォーフィレやレストランのシェ・ジョルジュで食べたアントレコートと並んで、パリで食べた肉料理で印象深いものになった。そしてこちらも忘れてはいけない初日のベルヴィルで食べた太平洋酒家の北京ダックも旨かった。このシェ・ミッシェルは今回のパリでの食事でベスト3に入る印象度。

その他、スープ・ド・ポワソンやクイニーアマンなどを食した。クイニーアマンは東京でもよく見かけるが、ブルターニュのクイニーアマンは多分、クイニーアマンを一度は食べたことがある人にとってはまるで違うお菓子。とてもコシがあるというか、はっきりいえば硬い生地で、バターの香りがハンパではないがもっと平たい感じで、ナイフとフォークでは正直食べづらさのある食べ物。去年の5月にお知り合いの方からのお土産で食べさせてもらいこのブログにも掲載したことがあるクイニーアマンがブルターニュのクイニーアマンだったが、シェ・ミッシェルのそれはもっと平たかった。ピエール・エルメがブラッシュ・アップさせて流行らせたタイプのものとは違うので、失敗したくない人はパリ・ブレストの方がオススメ。見聞を広げ、何事も経験!という人はクイニーアマンを。
会計を済ませ、バッグを肩にかけようと立ち上がったところ、後ろの横長のテーブルに座る綺麗なマダムがそのバッグを取って「私のバッグ持って行っちゃ駄目よ」とイタズラな笑顔を見せて言った。一瞬呆気にとられて「え?……どういうこと?」と思ったが、向かいに座るムスィウも笑みを浮かべたまま。んん〜、何だ?何が起こった?
何だろうと思ってマダムの椅子の下を覗くと、マダムのバッグはちゃんとあった。しかし、どこか自分のバッグと似てる……。なんと自分と同じバッグじゃないか!(しかも、やや色褪せが始まっていた自分のと違って、まだマダムの方が色合いが綺麗だ!)

東京では誰一人同じバッグを見なかったのに(この記事を掲載している今日現在でも未見)、パリではこの日、デ・ガトー・エ・デュ・パンですれ違った日本人と思しき男性に次いで2人目の遭遇者(後日、3人目の所有者にも出会うことになった)。おそらくこちらでしか買えないバッグだと思うが、それにしてもパリ恐るべし。一気に打ち解けて、マダムやムスィウと談笑。知らないうちにオレはマダムに握手を求めていた。マダムは快く応じてくれた。なんていう一日だろう。こんな嬉しいハプニングが待っていたなんて…。しかもムスィウはなんとパリ・ブレストを注文していた!……おお、パリ・ブレスト食べますか? この店のパリ・ブレストはとてもデカイのに…凄いな(笑) 自分はクイニー・アマンで精一杯だったけど。向こうの奥のテーブルにもパリ・ブレストが運ばれてる。恐れ入った。胃の調子が良かったら、自分もパリ・ブレストに挑戦したかった。

階段を上がる前にマダムに向かってAu revoirと口にしたのは、店を出るたびにやりとりする形式的な挨拶ではなく、心の奥から出た一言だった。「また」いつか同じバッグを肩に下げて、どこかの国の街のレストランで再会したいと思った。次に会えるとしたら、どこの国のどこの街なんだろう? マダムやムスィウはこの時のこと、覚えていてくれるだろうか。もし会えたら、その時はこっそりこのブログのことを教えよう。
「また会えたらいいな」そう思うのが愉しい。
こんな風な人との触れ合いが出来て、本当に良かった。これぞ自分の想う旅と感じられた。パリまで来て良かった。甘時間を始める前に何年もあちこち風景を撮り歩いていた頃も、こんな風に行く先々の町での人との触れ合いが思い出になっていったっけ。帰りのメトロの中で、風景写真を撮り続けていた頃を思い出した。

そういえば、夕方パストゥール通りの黒いシックな菓子屋の店内ですれ違った同じバッグをかけていた日本人と思しき男性。途中、メトロまで方向が一緒だった。先にこちらが降りてしまったが、あの人にもいずれ再会できる日が来るのかも知れない。再会出来る日がいつか来たら、その時はおそらく東京で出会う自分と同じバッグのもう一人の所有者である日本人となる可能性が高い。…そう思ったら、今こうして東京にいても、この先が待ち遠しくて仕方ない。もしあのフランス料理レストランで働くことになるかも知れない男性であったとしたら、その日は決して遠くないだろう。割と近い将来にやってくる気がする。もし会って話せるその時が来たら、その人とパリ話の続きを話してみたい。
[ Chez Michel(シェ・ミッシェル) ]
場所:10, Rue Belzunce 75010 PARIS
最寄駅:メトロ4、5番線、RER-B、D線「Gare du Nord」駅より。
場所:10, Rue Belzunce 75010 PARIS
最寄駅:メトロ4、5番線、RER-B、D線「Gare du Nord」駅より。






