いわゆるショッソン・ナポリタン。粉砂糖をまぶした生地に、程よい水分の飛び具合で炊き上げてあるカスタード。

失礼にあたる例えかもしれないことを臆せず言えば、生地の舌触りがまるでオーボンヴュータンのお菓子を食べてるような美味さ。古典の礎がしっかりしているシェフだけが作ることができるこの境地にあるお菓子って、数多のお店のお菓子を食べ続けていても、なかなか辿り着けるもんじゃない。
逆説的な言い方で、これもまた失礼にあたるかもしれないけど、このナポリテーヌを食べて、オーボンヴュータンのお菓子がフランス菓子を表現してくれていると感じた。やっぱり、パリの空の下は、今年出会った一番のサプライズ。
置いてあるお店は普段はヴィロンかオーボンヴュータンくらいしか思いつかない。カイザーにも同様のパイ菓子があるにはあるが、生地の食感の美味さでは自分の中でヴィロンを越えてる。先日、丸の内ヴィロンで買ったショッソン・ナポリタンを食べて、念のためもう一度食べ比べてみたが、評価は変わらなかった。
[ Boulangerie Sous le ciel de Paris(ブランジュリー パリの空の下) ]
場所:東京都世田谷区上馬5-40-13
最寄駅:東急田園都市線「三軒茶屋」駅より徒歩10分。東急バス「若林3丁目」下車、徒歩1分。世田谷通り沿い、環七交差点交番の先。
営業時間:11:00-19:00(商品がなくなり次第終了)
定休日:日、月曜(3月は火曜も休みがありますが、4月からは完全週休3日へ)
場所:東京都世田谷区上馬5-40-13
最寄駅:東急田園都市線「三軒茶屋」駅より徒歩10分。東急バス「若林3丁目」下車、徒歩1分。世田谷通り沿い、環七交差点交番の先。
営業時間:11:00-19:00(商品がなくなり次第終了)
定休日:日、月曜(3月は火曜も休みがありますが、4月からは完全週休3日へ)
文章をきちんと「読む」ことと、物事を「見る」ことについて
オープン以来、賛否両論あるらしいが、そのほとんどは味についてではなく、シェフのブログにおける物言いに対してである。手短かにまとめた文だから誤解を与えることもあるのだろう。だが、個人的には日本の食材に関することのほとんどがイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの弓田氏とほぼ同様のことを述べていると思う。
弓田氏の方がもっとエキセントリックな言い回しだ。詳しく知りたい人は「食の仁王」でググればいい。書かれている内容すべてに同意するわけではないが、頷かされる部分は多々ある。日本にあるものを片っ端からこき下ろしたいのではなく、日本人を取り巻く「食」の惨状に対して彼らは警鐘を鳴らしているのだと、何故受け取れないのだろうか。ちゃんと読めば判ることなのに。
無論、我々はそれでも自宅の近所にあるありふれたストアで食材を調達し、それらを使って調理して毎日飯を食っているわけで、現状として受け入れるべきものはある。限られた良質な食材をみんなが生活する上でやりくりできる経済環境で手に入れられるとは思ってない。
それでも、意識するのとしないのとでは違う。食に対して声を張る料理人の意見には、冷静に耳を傾けるべきだと思うよ。でないと本質を見誤るから。
僕はこの店のクロワッサンを食べた時、美味しくて嬉しいと感じる反面、腹が立つ思いをした。フランス人が日常で普通に食べられるこの味が、何故日本人には2009年の秋にもなって初めて出会ったような感動を与えられなければならないのか、と。クロワッサンなんて大抵の日本人が生まれた頃からあったはずなのに。
それだけ大してハイレベルでもない低アベレージなクロワッサンで満足を得た気分にさせられていたと考えたら、無性に腹が立ったのだ。美味いと思えるクロワッサンにも出会ってきたが、今まで多くのお金を落としてきて、2009年にもなってたった一つのクロワッサンにここまで感動させられてる自分に腹が立った。
もちろん、多くの職人の腕でいい味わいを保とうとしてきたことは、単なる消費者ながらも食べて伝わってくるものがあった。まだ自分の知らない美味しいクロワッサンは沢山あるだろう。全てを知った風な口を利くつもりはない。だが、ならば、なにゆえにこれほど感動させられるのか。じゃあ、今まで得た諸処の感動は一体何だったのかと。
パリの空の下のクロワッサンを食べた時に感じたのは、普段東京で生活をする僕らが手に触れることができるクロワッサンのうちいくつかは、まるで一丁60〜70円でスーパーに並ぶ、水で薄めたような安い豆腐と同じ、味わいに著しく欠けたものだ。バター?それも大事だろう。でも、どうやらバターじゃない。必ずしもエシレである必要があるとは自分は思ってないし。おそらく粉だと思った。といっても、粉がヴィロン社かどうかじゃない。きちんと適切な量を投じているかどうかということ。
パリの空の下のクロワッサンを甘時間に掲載した後、巴シェフのブログの新規記事に掲載された文を読んで、僕がこのお店のクロワッサンを「重い」と表現したのは決して間違いではなかった。
バターがたっぷりとかそういうことではなく、ちゃんと適量を投じた生地だということ。合点がいった。しっかり濃い豆腐が美味いのと同じで、パンやヴィエノワズリにも同じことが言えるのだ。それが判った。このお店のクロワッサンを食べた時から、もう薄いクロワッサンは食べられないと感じた。間食でしかないから、薄いクロワッサンでもバターの風味が感じられるのであれば十分という人がいるなら何も言わないが、お金を払ってる以上、確かに美味いものを食いたいのが消費者だと思う。値段だって別にバカ高いわけじゃない。毎度ヴィロンのクロワッサンに300円以上も払える余裕があるなら、この店のクロワッサンを200円少々で覚えておいて損はない。
上馬にできた黄色いお店は、我々に本当にいや正しく美味いものを食わせてくれるためにオープンした店だと思う。パリには若くていい才能がどんどん出てくるからいいだろうが、それでもパリは一人の有能なシェフを去年失った。その代わり、東京は一人の有能なシェフを手に入れた。しかも、パリで成功した勤勉な日本人。……どう考えてもチャンスだろう。我々にとってチャンスだ。美味いもの食わせてくれるシェフは一人でも多い方がいいに決まってる。2009年になってやっとこういう味を手頃な価格で提供してくれる店が現れたことって、喜ばしいことだと思うんだが、どうも大事なことを見ようとしない人がいるようだ。
自分で出来ることは自分でする。人の基本だ。だから、都合があって自分に出来ないことは自分の代わりに他の人にやってもらう。手間賃と、相手が持っているポテンシャルへの期待・信頼。この二つに我々は相手に対価を「お金」というもので払ってきた。それはお金が巨大な石だった昔からそうだ。石だったものが金や銀に移り変わった時代でもそうだったし、紙幣になってからもそうだ。いつも我々はモノにではなく人に対してお金を払ってきたはず。
「本当に美味い店は何処にあるのか」。「自分ではなく、人に焼いてもらうに値する店は東京に何店あって、それはどことどこなのか」。「それは日常的に買いに出かけられる距離にあるのかないのか」。この甘時間が普段数多のパティスリーに足を運ぶのも、そういう理由だ。好みは人それぞれだから仕方ないが、自分と同じことをみんなが出来るわけじゃない。甘時間はお金を一切貰っていない。ケーキを作ることと売ること以外、全部自腹を切って続けてきた。見返りは全部、見に来てくれる人たち。人がいるからやってる。
極上の一品なんか追いかけ回す必要がどこにあるのだろうか。日常を満たす至福があればそれでいい。日常を豊かで健やかなものにすることから目を背けて極上も何もないではないか。チャンスはそれをチャンスと感じ取れる人にしか目に見えない。気づかない人は通り過ぎてしまう。日常をしっかりとしたものにすることの方がずっと大事だと、甘時間はこれまで5年近くもの間、絵と言葉で伝えてきたと思ってる。だから、今一度伝えたい。この店が東京に現れたのはチャンスだよ、と。
このタイミングをパッシングスルーした後、次に来るチャンスがいつになるかなんて誰にも判らない。他に好きなお店がいくらあってもいいし、選ぶのは全くもって自由なんだけど、チャンスのタイミングというのは、何度でも無制限に転がってくるわけじゃない。
でも、これは間違いなくチャンスだと思う。いいお店だよ、パリの空の下。一風吹かせると思うよ、あのお店は。重くて結構だと思う。きちんと粉の味が伝わってくるなら、あのくらいがいい。あれで当たり前くらいになるべきなんじゃないか?我々は。いつまでたっても腹に溜まらないのは薄っぺらい味のパン食ってるから。それじゃ米の方がいいと思うのは当然。日本は米文化の国だから、「やっぱり米だね」となるのは自然なことだけど、パンじゃ食った気がしないって言い切るのは、いかに味の薄っぺらいパンを食わされてきたかを知ってからでも遅くないと思う。そういう意味で、大事なことを知るチャンスがあのお店にはある。
何故こんなことを長々と書いたかというと、某グルメサイトに寝ぼけたレビュー垂れ流してる人たちに言ってやりたかったから。何年も前から言ってやりたかった。そして、ああいうのをアテにする人たちにも言いたかった。







物事をきちんと見たり、文章を読む事は、情報が無差別に多様化している時代だからこそ、大切になってくるのでしょうね。
情報に翻弄される時代なのでしょうね。
私も流されずにしっかり見据えなければ。。
思わず熱くなってしまいました…。
夜更かしするもんじゃありませんね(苦笑)
写真もすばらしいですが、この文章力!!
もやもやと感じていたことが文章になっていて「そうそう!!」と思わず膝を打ちます。
巴シェフのブログも拝見していてちょっとハラハラしていました。ブログは誰でも読めるから、ナナメに詠む人がいると叩かれちゃうなあ。でもこういう人に頑張ってもらいたいなぁ、なんて。
パリの空の下のクロワッサン。これはもう別物ですね。多分もうクロワッサンは他の店では買わないです。決して家から近くはないのですが、自転車飛ばして買いに行きます。(ウチはプチフールのそばです・笑)
パリの空の下のギャレット・デ・ロワ、食べました。
是非記事にして欲しいです。照乃芯さんの写真と記事で、どんな風に・・・?1月中は焼いているそうです。予約も出来ました。
長々と失礼しました。頑張ってください。
いつも見に来てくださってありがとうございます。
まあ、年に一度か二度あるかないかというくらいに大放言をしてしまったなと(笑)
とにかく、美味しいお店が出来たことを今はとても嬉しく思ってるところです。
メゾプチのそばっていうのはある意味羨ましいけど、
浅草線の終点でしたよね、確か。
もう4年近く前に行ったことがありましたけど、
あそこから自転車は凄い!
僕が自宅からオーボンヴュータンまで自転車を飛ばすくらいの距離がありそうですね。
1月中は大丈夫なんですね、ギャレット・デ・ロワ。
できるだけ毎年違うお店で買って、いろんな味を知っていこうと思って、
特に今年はすでに2店で食べてますが、ブログで写真を見たら
美味しそうなんですよねえ。
買いに行けるとしたら、来週末あたりになりそうです。
あるいは最終チャンスの30日土曜日でしょうか。
ひとまず、これからも甘時間をよろしくお願い致します。
もう4年近く前に行ったことがありましたけど
はい。西馬込です。パリの空の下までざっと8kmはありますね。9km近いかも。。。
でも巴シェフの折パイ生地は、他にはないかも、と思います。いえ、そんなにたくさんパイ食べてるわけじゃないのですけど。
プチフールにはそろそろお越しになりませんか?(笑)もし今度おいでになる時は駅前のブーランジェリー・イチも寄ってみてくださいね。メゾンカイザーのタルトがお好きなら、きっと気に入っていただけると思います。
記事を拝見しているととっても好みが照乃芯さんと近いのです。私は照乃芯さんほど舌も肥えてないし数も食べていませんが、ショートケーキについての記事を読んで一層「近い」と感じました。
これからも初めてお店に行く時は「甘時間」参照、になると思います。
いつもありがとうございます。
次回訪問の機会が長いこと先送りになっていました。2月に行きたいなと思っています。
ブーランジェリー・イチは以前から名前だけは知ってるお店でした。
メゾンカイザーのチーフブランジェをされていた市毛シェフのお店ですよね。
メゾプチに行く時はイチも計画に組み込みます!
かあちゃんさんと好みが近いというのは嬉しいです。
より一層甘時間を見に来てもらえる頻度が上がりそうです。