今回はJR四谷駅から訪問しましたが、今は外堀公園沿いの坂を紫陽花を鑑賞しながらオータニに行けます。これは断然オススメです。
到着後、メインロビィ1階の右手にブティックを見つけた時は正直その狭さに面食らいましたが、せっかくなのでサツキのショーケースも覗いていきました。ですが特に買いたくなるケーキもなかったので(笑)、素直にエルメのサロンへ踵を返し、ドゥ・ミルフィーユとエモーション・モザイクを買っていきました。
帰りは半蔵門線で渋谷へ寄ってゆくため永田町まで移動。紀尾井坂の美しい並木の間隔と配列に軽く視線を仰ぎつつ下りきると、「そこ」はちょうど谷間になってて、昇りの清水谷坂でヒドイ目に遭いました(>_<) でも、なんとなく思うのですが、もしかしたら清水谷で右へ曲がっていれば、平坦な道のまま永田町へ行けたのではないかと。あの坂をわざわざ昇って赤プリの方まで回っていった自分はまさか…………。
最後に負け惜しみですが、清水谷坂にはエスカレーターを付けるべきではないでしょうか(笑)

○ドゥ・ミルフィーユ - 2000 Feuille -(¥630)
…実はエルメのミルフィーユはとても濃厚であるという話を聞いていたため、わざと先送りして、これまでいろんなお店のミルフィーユを食べ歩いて自分の中で下地(舌地)となるものを作ってきました。パティスリー巡りも、かれこれ47ヶ所になるでしょうか。最初のイメージ・基準にエルメを持ってくるのではなく、まず外堀から埋めるような感覚で食べてきました。日本人目線のミルフィーユから始めて、フランス人目線で締めると、見え方に広がりがあると思うし、更なる探求心も芽生えるのではないかなと。それで、そろそろエルメを見ておくいいタイミングだと思って、先週(6/4の事です)のイル・プルー・シュル・ラ・セーヌに続いて、足を運びました。
何種類かミルフィーユが存在するのは知っていたのですが、この日ショーケースにあったのはドゥ・ミルフィーユとミルフィーユ・モザイクの2種。購入したのはドゥ・ミルフィーユの方でした。そして、実際に食べた印象ですが……美味しい!
もっと早く食べとけばよかった(笑)
とにかく大きい!ここまで大きいとは思わなかった。
全長約10cm。高さ約4.5cm。レピキュリアンのミルフィーユと比べたら3:1くらいの比率がありそうな感じです。いや別にレピキュリアンを責めてるわけではありません(笑)
630円ですけど、これならまあいいかな。
さてケーキのほうですが、よくカラメリゼされたフィユタージュの上にアーモンドが一粒。これも単なる飾りというんではなく、甘くて非常に食べ易く美味しいと同時に、これから口へと運ばれてゆくプラリネクリームなどのアンサンブルのアイキャッチ的な存在感を醸し出してます。
下層がナッツの混ざったプラリネクリーム、上層がプラリネ風味のムースリーヌ。フィユタージュもサクサクとしてて理想的です。その断面を見ると、とても美しいです。ミルフィーユのフィユタージュってこうあってほしいなあとつくづく感じさせてくれます。決して「バリバリ」ではなく「サクサク」であるという点が実に好ましいと感じます。苦味もなく、必要最小限度の香ばしさを保っていて、しかも硬過ぎず。とても好きになりました。
そして色。食べる前に上面にアーモンドを一粒載せておく事で、茶色のグラデーションが始まる事を視覚的に印象付けています。ちゃんと「意味」があるんですね。千枚の木の葉(ドゥ・ミルフィーユだと二千枚ですね)であるのだから、木や葉の色である茶系統でまとめているのは色彩的に非常に理にかなったもので、一瞬木の葉が沢山重なったようなイメージ、二次的な視覚効果を与えてくれますよね。基本に忠実というか、土着の側面ですね。クラシックなケーキの中に、文化や風土・歴史・(人の)営みを踏まえた土着を盛り込んで丁寧に作りこんでゆけるシェフには相応の実力というものを感じます。
ピエール・エルメのミルフィーユを眺めていると、いつの間にか自分は自然の中に立っています。
歩き出すと、小枝の折れる音や、重なった木の葉が擦れ合う音だけが鼓膜を叩きます。ふと、しゃがんで足元の木の葉を千枚掻き集め始めた自分は、本物の木の葉を重ねる事でミルフィーユを作ってみます。
…………すると、それは次の瞬間、台所に立ってキャベツに包丁を入れて断面を繁々と見つめている場面に移り変わり、すぐに次の瞬間にはエルメのミルフィーユにフォークを入れている自分に変わっているのです。さっきまで白いお皿の上に載ったミルフィーユを繁々と眺めていた自分が我に返ります。
「ああ、ここに本物がある。」
ここでいう「本物」とはフランスの文化や血が身体に流れるフランス人の作ったもの、という意味です。一瞬、今まで食べてきたお店のミルフィーユすべてが目の前に現れ、そしていくつものミルフィーユが幻になって消えていきます。そこに残った一つのミルフィーユ。エルメでした。
見た目の雰囲気だけで要素を追加してしまうというのは、実は余計な足し算なんですね。イチゴを載せたり、フランボワーズを載せたりするのも、正直な気持ちとして自分には余計な仕事だと感じています。味本位の結果として、フィユタージュのサクサク感を損なわずに水分の豊富なフルーツを持ってくる二律背反的な要素を組み合わせる技術とスキルを持ち合わせているのならOKなのですが、そこを克服したいがためにフィユタージュをバリバリにして切りづらくしてしまっては「食べにくいケーキ」という評価につながり兼ねませんし。要はきちんと引き算がなされているか否か。何故イチゴが載っているのか。何故イチゴが載っていないのか。
エルメのミルフィーユは濃厚ですがそれは決して足し算ではありません。そして、それが何をイメージしているのか本人に喋ってもらわなくても伝わってくるのは、つまり十分に引き算ができているからです。ケーキの中にコミュニケーションが存在し、コミュニケーションが成立する。これはすごく大事なことではないでしょうか。視覚的に味覚的に伝達すべきデザインがこのミルフィーユには備わっている証拠であるということです。さすがエルメ。これは納得です。もうこれ以上の贅言は不必要だと思います。
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PIERRE HERME Patissier(ピエール・エルメ・パティシエ)
場所:東京都千代田区紀尾井町4-1 ホテルニューオータニ・メインロビィ1階右手
最寄駅:JR中央線「四谷」駅より徒歩5分
営業時間:11:00-21:00
定休日:無休
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