左斜め前に筑土八幡神社、信号待ちの後ろが熊谷組、前方にキミドリ色の看板が見えます。そこがカー・ヴァンソン。筑土八幡町に去年2006年12月に出来た新しいお菓子屋のパティスリー・カー・ヴァンソンです。
ジャン・ポール・エヴァンで多くキャリアを積んできたパティシエール(女性パティシエ)の石井 Vincent 敬子氏によるケーキは、やはりチョコを生かしたものがスペシャリテ。
筑土八幡町の界隈は牛込柳町や弁天町、矢来町、東五軒町など、「丁目」がない町単位の区画が多いんです。神田界隈も似た特徴を持っていますが、大久保通りはウネウネしたアップダウンのある坂が長く続いたりする面白いエリア。歩くのは大変だけど、都営バスが走ってるので、一度通ってみるのもいいかも。
それと余談ですが、カー・ヴァンソンのある交差点を地図で見ると、「K(カー)」の文字になってるんです(笑)

先週の土曜日16時前の訪問で残っていたミルフィーユ・ショコラは一個、同じくヴァニラは二個、クレーム・ブリュレ各種とクレーム・キャラメル、ティラミス、シュー・ア・ラ・クレームは十分並んでいました。目当てだったサントノーレキャラメル、エクレール・ショコラ、タルト・ショコラなどがなかったのは残念でしたがガトー・シャンティー・フレーズが他のケーキをオーダーした直後に補充されたので速攻で追加オーダー。合計4つを購入しました。
ショーケースに並ぶケーキはどれもクラシックでベーシックなもの。チョコを生かしたものは、やっぱり多く目に付きます。人手が増えてもう少し余裕ができれば、もっと違ったものも出てくる可能性がありますが、基本的にはクラシックなお菓子の提案をしているお店なんだと思います。
価格は500円台が中心ですが、シュークリームは210円とむしろ良心的。スベシャリテのミルフィーユ・ショコラは600円。やや値が張りますが自分としてはギリギリ許容範囲です。そこらへんは交通費との兼ね合いですね。安く上がる分ケーキにお金をかけるかどうか。というのも、評判のお店だからといって遠いところまで高い交通費をかけて行って期待以下だったんでは心底ヘコみますから…。
面白いのは、サロン。決して広くなく、むしろ手狭さすらある。16時前の段階で自分を含め5組くらいお客さんが居ましたが、身動きは取れそうになかったです。
で、ショーケースの向こうがすぐ厨房なんです。間に敷居がない。作業されてるスタッフの方が職人さんから上がってきたケーキを乗せたトレイを、クルっと後ろに回ってすぐにショーケースに補充します。何を作ってる最中なのかこちらから手にとるように判る。これは間取りが狭いせいなのかワザと狙ってるのかは判らないけど、見てて面白かったです。作ってる風景が目の前にあるライブ感と緊張感、それに反比例するようなサロンの和み具合…。サロンも厨房も気持ち二〜三畳分くらいゆとりがあるといいかなとは思うんですけどね。
神楽坂は学生時代よく歩きました。といっても別にツインスターに通っていたことは一度もないです。食事ですね。通っていた大学が外堀通りの上にあるので、新宿や渋谷に出るよりも飯田橋や神楽坂、市ヶ谷周辺で済ませてしまうことが多かったです。れもん屋とか、神楽坂飯店とか、とんかつ村とか、デニーズとか(笑)
神楽坂飯店の大盛りチャーハンは学生時代、ついに挑戦することがありませんでした。餃子は無理だけどチャーハンなら十分完食できる自信は今でもあるんですが…。
ま、そういうことでカー・ヴァンソンです。ちょっとヨロシク。

○ミルフィーユ・ショコラ- Mille Feuille tount Chocolat - (¥600)
こちらはカー・ヴァンソンのスペシャリテ。3cm×12cm×2cm。数字だけ見ると高さはないように見えますが、全体的には明らかに大きいです。そして構造が面白い。2層になっていて、それぞれ間に3点、四角くガナッシュが搾られていて、横から見るとまるで建築物を彷佛とさせます。
フィユタージュはかなり薄めに焼かれており、およそ2mm。フォークを入れた瞬間にパリっと割れる感じです。このフィユタージュ自体にもチョコが練り込まれています。表面はカラメリゼなし、一番上のフィユタージュにはシュガーパウダーとカカオパウダーが振られています。側面にはパイクラム。ミルフィーユそのものとしては非常にクラシックな作り込みだと思います。……もちろん、横から見るまでは、の話なんですが。「ミルフィーユ〜上から見るか、横から見るか」ですね。
ガナッシュは決して重くなく、カカオ分65〜70パーセント前後の舌触り。実際にはもっと柔らかく感じるかもしれません。そして、ガナッシュとガナッシュの間の空洞に対して垂直に下までフォークを入れて、都合3回に分けて食べられるように計算されています。フィユタージュが薄いのはここに理由が。フィユタージュが自己主張し過ぎない点は、やはりチョコやクリームを主張したいからなんでしょう。これも引き算として潔い。「千枚の木の葉」にはほど遠い厚みですけどね(笑)
…JPHのお弟子さんということで割と保守的なものを想像していたんです。単にチョコを生かすというだけのチョコ尽くしなミルフィーユだったらどうしようか、と。しかし、このミルフィーユは、デザイン面では挑戦的な精神を感じました。かといって表現としてアヴァンギャルドというわけではないんです。コンサヴァティブな味を保ちつつ、組み立て方に新しい視点を用いてる辺りが気に入りました。でも、ここは評価が分かれるのかもしれません。フィユタージュが薄くてミルフィーユ食ってる気がしないという人もいるかもしれないし。ま、人それぞれで。
味についてはすごい冒険など一切感じません。至極まっとうだし、その佇まいからは質実剛健ささえも感じさせ、側面から見た構造上の特徴も新鮮だし、華やかでお洒落な町というよりは、歴史の礎を醸し出すような古い建造物が立ち並ぶ石作りの町をイメージさせるような、そんな発見があると感じました。クリームの搾り方とかは多少バラつきがあるんですが、それでもむしろザラ付き感があっていい。500円台(このお菓子は600円ですが)のケーキで「高い」と感じさせなかったお菓子屋はピエール・エルメ以外ではカー・ヴァンソンが初めてです。
----------------------------------------
patisserie K.ViNCENT(パティスリー・カー・ヴァンソン)
住所:新宿区筑土八幡町1-2 第3NKビル102
最寄駅:JR総武線「飯田橋」駅下車、徒歩10分。
営業時間:11:00-19:00
定休日:水・木曜日、その他不定休(サイトのカレンダーで確認してください)
----------------------------------------