夏らしい桃のタルト。皮付きの桃をキャソナード・キャラメリゼ。シュークル・バニエとエピスを入れ、ポアレ。シュークル・バニエは2月のマルディグラ仕様で作られたパン・オ・レザンの時にも使われたものだろうか。

更にオレンジ・リキュールでフランベしたもの。さくらんぼのクラフティの時のような柔らかいアパレイユにグリオットを散らしてある。桃は皮付きのままなので、プチッとした歯応えがかすかに得られる。アパレイユがふんわりと柔らかい口溶けで桃に合ってる。
正直に書くと、桃は昔からケーキとして食べるよりもそのままで食べるのが一番好き。もっと正直にいえば、食べずに、売場で桃のそばを通り抜け、香りを嗅ぐのが一番好きだ(笑) あれが個人的には一番桃を楽しんでる瞬間じゃないかと感じる。
桃というのは古代中国から伝わった仙果。古事記にも登場するくらい古い。火の神を産んだ後に病を煩って亡くなってしまったイザナミのみことを追って幽世(かくりよ)へ渡ったイザナギのみことが、朽ち果てた姿の妻を見てしまった。恥をかかされたイザナミは夫のイザナギを連れ戻そうと邪気を利用して後を追わせる。あまりの恐怖に逃げ帰って黄泉比良坂(よもつひらさか)まで戻って、木に実った桃を投げつけて邪気(怨霊・悪霊の類)を追い払ったエピソードがある。
そんな意味合いから、桃は悪い者を退治するとのことで「桃から産まれた桃太郎」が誕生する。桃太郎に出てくる鬼はこの日本書紀にも出てくる幽世(かくりよ)に存在する邪気の類で、あくまで虎模様のフンドシの赤鬼・青鬼が鬼が島から人里にやってきて金品・食料をせしめてゆくというのは子どもの絵本向けの「デフォルメ」である。何故「桃」なのかを辿っていけば、無用の解釈はナンセンスであるはずなのに。一頃昔、「本当は鬼は悪者じゃないんじゃないか? 悪いのは桃太郎の方では?」という説を広めようとした人たちがいるが、あれは桃太郎が太平洋戦争中に国家高揚の道具に利用された過去があるために、戦後の左翼的観点から歪んだ解釈を含ませようとした自虐史観、詭弁である。大人が子どもの絵本を悪用してはいけない。
霊験あらたかであり、エロティックでアンニュイな雰囲気を持つ桃。果実から醸し出す香しい香りは、もうそれだけでホワホワしてくる。……まあそんなわけで。
かつてピエール・エルメのタルト・モードで手を加えた桃に挫折感を覚えてからは、できるだけそのまま味わえる楽しみ方をしてきた。
しかし、今回のデフォルメした桃は美味しく味わえた。デフォルメの仕方・工夫の仕方で、美味しく味わえるかがっかりするかが分かれるところなので、とりあえず一回はあれこれ食べてみるべきなのかな、と。
[ Boulangerie Sous le ciel de Paris(ブランジュリー パリの空の下) ]
場所:東京都世田谷区上馬5-40-13
最寄駅:東急田園都市線「三軒茶屋」駅より徒歩10分。東急バス「若林3丁目」下車、徒歩1分。世田谷通り沿い、環七交差点交番の先。
営業時間:11:00-19:00(商品がなくなり次第終了)
定休日:日、月、火曜
場所:東京都世田谷区上馬5-40-13
最寄駅:東急田園都市線「三軒茶屋」駅より徒歩10分。東急バス「若林3丁目」下車、徒歩1分。世田谷通り沿い、環七交差点交番の先。
営業時間:11:00-19:00(商品がなくなり次第終了)
定休日:日、月、火曜