
僕は普段お菓子作りをするわけではなく買って食べる専門(近い将来オーブンを買ったら自宅で作ってみたいとは思ってるけど)でしかないので、お菓子作りのルセットを知りたいという理由でもない限り菓子職人の著書を手にとることはなかった。甘時間でも何度も書いているが、彼ら職人は伝えたいことや言いたいことを言葉ではなくお菓子にして表現しているのだから、お菓子を通じて僕は彼らが何を表現しようとしているのかせめて感じたい。
もちろん、それだけでは判らないこともあるから、たまにはお菓子特集を組んだ雑誌等を読んで、彼らの言葉による考え・思いを感じることもある。そこから見えてくるものは、やはり「人」。お菓子そのものの美味しさに出会うのはもちろん、お菓子を通じて僕らはきっと人を見ているはず。
何故こんな風な味になったのだろう?
何故こんな風な素材の組み合わせなのだろう?
何故この職人の作るお菓子やパンはこんなに美味しいんだろう?
「何故」は、いつだって人に向けられている。人や人の動機を知りたいという思いが「何故」に繋がる。

これほどフランス菓子を多く揃えるお店も他にないし、特に焼き菓子やタルトなどはどれを食べてもまず外さない。いくつかある年間ローテーションを組むお店の一つに必ず入るお店だ。
今どきのきらびやかな装飾や斬新な味の組み合わせではなく、どんなパティスリーよりもベーシックを並べるお店。かといって、生菓子が古臭いわけでもなく、去年食べた山羊乳のチーズケーキであるサントモールは、すごく意欲に満ちあふれたケーキだと感じたし、美味かった。
よく僕も含めてフランス菓子が好きな人は「オーボンヴュータン出身シェフのお店」という部分に敏感に反応して、何かを期待することがある。オーボンヴュータンには多分、何かがある。何があるんだろう。あるなら、何なのか知りたいのである。それが、この本を手に取らせた理由。「ベーシックは美味しい」という考え方を貫き続けてきたと思うお店だから。
著者の河田シェフはこう言う。

「これは僕の経験から言うことですが、修業する店なんて、本当はどこでもいいと思う。
その店その店で覚えることは必ずあるものだから。
決して名の知れた名店である必要なんかないですよ。
店によって、いろいろな方法論、理論があるから、それを知るだけでも意味がある。
その上で将来、自分に合った方法をチョイスして、自分なりの理論を構築していけばいいんです。」

確かにその通りだろうと思う。しかし、それでも食べ手としての僕らは、オーボンヴュータンで修業したシェフのお店で食べるお菓子に、他のお店との違いを感じることはある。例えば十分焼き切った粉の美味しさ、アーモンドの香り、フランス地方菓子を大切にしているところ。どうしてもオーボンヴュータン出身のシェフがいるお店には他所にないものがあると感じてしまう。

よく聞くのは、オーボンヴュータン出身のシェフがオーボンヴュータンで学んだことというのは主に「精神的な部分」だという。仕事への姿勢。オーボンヴュータンで働いた人しか知り得ない何か特別な技・奥義を伝授してもらうだの、そういうことがあるわけではないはず(笑) 実際、この本を読んでも判るのは、河田シェフの仕事に対する情熱や姿勢、菓子作りの精神といったベーシックな部分だ。お菓子職人に限らず、きっと誰にも通じるベーシックな部分。僕にも。

技巧を凝らしたお菓子も今のパティスリーには沢山あるけども、いつでも食べたいと感じるのは伝統的な仕事をした安心感があるクラシックな菓子。あるいはクラシックのベースを守りつつ個性を発揮したお菓子はクラシックなお菓子と同じくらいの頻度で食べたいといつも思う。独自のアイディアを表した真新しいお菓子も食べたくなることはあるが、それは時々で十分と感じるし、何度もリピートしたいのは、よりベーシックな菓子。「いつもの菓子」を買って帰るのが、やはり日常を実感する。
美味いフランス菓子を食べようと思って脳裏に浮かべる店の中には、やはりオーボンヴュータンかオーボンヴュータン出身シェフの店がどうしたっていくつも入ってくる。河田シェフは嫌がるかも知れないが、僕らはオーボンヴュータン出身であるという部分には反応してしまうのだ。
そして、尾山台に来ると、ベーシックなお菓子に囲まれてる時間に目をキラキラさせる。日本にいながら美味いフランス菓子で満たしてゆく日常の扉を開けた時にあったお店の一つはオーボンヴュータンだった。
この本に興味を持たれた方は下の一行をコピペしてググって、お好きなお店で購入してお読みください。
『伝統(ベーシック)こそ新しい オーボンヴュータンのパティシエ魂』河田勝彦著/朝日新聞出版社
[ AU BON VIEUX TEMPS(オーボンヴュータン)参考サイト ]
住所:東京都世田谷区等々力2-1-14 原田ビル1F
最寄駅:東急大井町線「尾山台」駅下車、ハッピーロード尾山台商店街を左へ徒歩3分ほど
営業時間:9:00-18:30
定休日:水曜日(新宿高島屋パティシェリアの入荷日は火・土)
住所:東京都世田谷区等々力2-1-14 原田ビル1F
最寄駅:東急大井町線「尾山台」駅下車、ハッピーロード尾山台商店街を左へ徒歩3分ほど
営業時間:9:00-18:30
定休日:水曜日(新宿高島屋パティシェリアの入荷日は火・土)