2006年08月25日

三越新宿ALCOTT/MAISON MIKUNI(1):キャラメル

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ある盛夏の暮れなずむ頃、メゾン・ミクニへ立ち寄った。

ミクニ、という固有名詞を耳にする度に真っ先に思い出すのはエーグルドゥースの寺井シェフだ。ミュゼ・ドゥ・ショコラ・テオブロマの向かいにあるミクニのショーケースには、エーグルドゥースにあるカスレットやフレジエ、ミルフィーユ(ミルフゥーイユ)など、見覚えのあるフォルムをしたガトーが何点か並んでいる。

フレジエはミクニのものの方が随分と小さく見えるし、カスレットはこちらの方が赤味の強い焼き目が濃い。…いいや、むしろ---まるでエーグルドゥースがエーグルドゥースとして生まれた頃のカスレットのようだ。

カスレットとまるで変わらぬが全く異なる旧き新しき名を冠したそのケーキをオーダーする隣のカップルが微笑ましい。…そういえば、まだ今月はエーグルドゥースに行ってなかった。いつもなら月の初めの週末の、丁度こんな色した空の時分に出かけてるはずなのに。

もの足りなさと呼べる何かから来るフラストレーションを片隅に置きながらこの夏を過ごしてきたような気がする。お盆もおしまいだ。もうそろそろ、そいつが何なのか、判ってもいい頃なんじゃないか。ボヤボヤしてる間に、夏はもう終わってしまうのだから。

家路に着くや、そんな由無し事が頭の中をグルグル駆け回っていた頃、おもむろに紐を解き、包みを開けた。

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○キャラメル - caramel -(¥1,260)


目の前には横10.5cm、縦6.5cm、高さ5cmのケーク、「キャラメル」があった。表面はとても艶やかで滑らかであり、かつ強固である。だが、エーグルドゥースの方がもう少し硬い。それはそうかも知れぬ。キャラメルに焼ごてを当てる回数が3回もあれば、あれだけ硬いわけである。しかしミクニのケークも負けてはいなかった。

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「さあ、食べよう」
滑らかにカラメリゼされた表面に対して、しっかりと力を込めてナイフを押し入れる。

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「ピシッ」
とヒビが入るその瞬間が堪らないのは、それが静寂(しじま)を掻き乱す違和感のようであり、それがかけがえのない何かを失った喪失感のようであるから。この錯覚が引き起こす心の波であるから。この波を乗りこなそうと、この一瞬に人は人であろうとする。

人の背負いし深き罪。破壊しなければ届かない欲望のジレンマ。美しさのもつ脆弱さとは、次の瞬間にそのすべてを崩壊させてしまうかもしれない恐怖との表裏、同居から来るのではないだろうか。

このナイフとはケーキにとって一体何なのだろう。あるいはドイツ人ならば自らの哲学をもってナイフの存在性を認める事ができるやもしれない、かつて彼らがその勤勉さゆえにバウムクーヘンを解体したように。だが、ナイフはケーキを刻み、あまつさえ傷付けるのだ。美とは何か。それをせずに味わう事は難しい。人である以上、決して避けて通る事など出来ぬ。美しいものは美しいままそこに在り続けるのかもしれない。美しいものがやがて消えてなくなってしまうのだとすれば、それは美しいものが美しいゆえに、人はそれを擦り抜けさせてしまうからだ。叶うならば、永遠(とわ)にこの手の中に掴んでいたい。そんな時、人はこのナイフで美しさというものを刻みつけるのだ。自分の付けた痕を、証しを刻みたいのだ。だが、次の瞬間、美しいものは我々から擦り抜けてゆく。すべからく愛がそうであるように、美しいものもまた手から擦り抜けてゆく。そうさせているのは人そのものなのだ。

ナイフとは美しさを解体する哲学なのか。哲学は美しさを傷つけるのだろうか。

しかし、ケーキは裏切る事がない(そう信じている)。何度ナイフを入れようと、美しさがいくら切り刻まれようと、それは再び舌の上で昇華する事を人は知っているから。求めたのは言葉ではない。

苦痛と快楽が、絶望と歓喜が、凝固と融解が、生と死が。フォークを入れた刹那、すべてがここに…。胸に去来し、溢れゆく感情。豊饒の海に漂泊する一艘の船が水平線の彼方へ遠ざかる。人は午後に曳航するこの一艘の船であり、その船を俯瞰する岬の灯台である。あるいは大地に降り落つ雨粒たちであり、岩を呑み込む濁流である。もしかしたら広大な海へと流れてゆく川そのものなのかも知れない。この流れを塞き止めるダムなどここにはありはしない。満ちてゆく時の中で求めたのは言葉(論理)ではない。



「美味しい…。」



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横に置いたテキーラ・スラーマ&レモンをグイっと飲みながら味わうケーク・キャラメルは、いつまでも今宵の自分を酔わせてくれる。いざなってくれる。生地に染む褐色のキャラメルの香りも、しっとりした苦味も、覚えアリ。ここにルーツがあった。Back to Basic(アギレラか)。キャラメルがこんなにも苦味を含んで美味しいものだと教えてくれたのはエーグルドゥースだった。時空を超えて、またも。ケーキを教わるのは一体これで何度目だろう。いや、何度でも教わろう。

…行かなくちゃ。求めているものが何なのか、思い出したよ。
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2006年08月23日

初台オペラシティ/LES CINQ SENS(3):フロマージュ・ヴァニーユ

最後は、新作です。

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○フロマージュ・ヴァニーユ - fromage vanille -(¥400)

通常400円で販売されているレ・サンク・センスの新作ですが、8/15のお盆オーラスとあってか、この日に限って半額の200円でした!

初めての訪問にしては、結果的に良いタイミングでした。この日は参宮橋のケーキ屋「マチルダ」へ足を運んで門前払いを食らってしまったので(というのも、8/22まで夏休みをとっているそうで、閉まってたんですね…マチルダさあん!@ガンダム)、霧雨が降りだした中を徒歩でオペラシティまで移動してきた甲斐がありました。

チーズケーキの土台の上にバニラクリームがたっぷりと乗っています。上にフタをしているクッキーもチーズ風味。上部には洋梨のカットが数片。中には丸くかたどった洋梨のジュレが入っています。

初台レアチーズという看板商品があるくらいチーズには力を入れているような印象を受けます。ただ、ポワール(洋梨)の存在感が少し弱いと思いました。いわばオフィスビルに入っているお店ですが、意外というか、もう少し大人向けなケーキが並んでいるものとばかり思っていました。実際は、かなり間口の広いケーキですね。ぶっきらぼうに言えば「普通」です。食べ易いですが、食べ易過ぎて、残念ながらお店の名前のような「五感」を刺激する味は感じられませんでした。

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patisserie restaurant LES CINQ SENS(レ・サンク・センス)

住所:新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティビル サンクンガーデン2F
最寄駅:京王新線「初台」駅北口下車、徒歩1分以内
営業時間:月〜土 AM10:00〜PM11:00 (ラストオーダー PM10:00) 、
日・祝 AM10:00〜PM10:00 (ラストオーダー PM9:00)
定休日:
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初台オペラシティ/LES CINQ SENS(2):竹炭シュークリーム

つづいてはシュークリームです。プレーンなものと、この黒い風変わりなものと2種類ありました。

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○竹炭シュークリーム - chou a la creme de charbon -(¥230)

2年ほど前に尼崎の洋菓子店「ぶるうまうんてん」が販売して大阪方面ではブームがあったそうですね、この竹炭シュークリームというのは。レ・サンク・センスには通常のシュークリームも当然ありますが、ちょっと風変わりなシュークリームに気を止めた次の瞬間にはもうオーダーしてました。

生地の中に練り込んだ竹炭パウダーが全体を黒々と光らせています。竹炭には腸を整える作用があるそうです。靴の匂い消しにしか使ってませんでしたよ。

まず、シューは横入れ式です。皮は特に炭っぽい味がするわけではなく、普通のシュー皮と同じ感覚で食べられます。シュガーパウダーがかかっていますが、色が黒い点以外は、何の事はない普通のシュークリームです。やはり、竹炭効果という部分が大きいんでしょうか。

何故この竹炭シュークリームが大阪方面で流行ったのか全然判らないんですが、竹炭の効能辺りに見る健康志向なのかな。あまり大阪っぽいムーブメントには思えないなあ。こういうのは大体…まあいいか(笑)

自分には、はっきりと味に表れてくれないと判りづらいというか、あんまりこの手の方法で売るケーキというもの自体、なんとなく胡散臭く感じてしまうんですが(好機心旺盛なので買ってしまいましたが)。かといって炭臭かったら全部食べ切る自信はなかったし。味そのもので判断するなら、別にこのシュークリームに230円出さなくてもいいんじゃないかな…といった印象です。「一回食べたら十分」系かな(笑)

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patisserie restaurant LES CINQ SENS(レ・サンク・センス)

住所:新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティビル サンクンガーデン2F
最寄駅:京王新線「初台」駅北口下車、徒歩1分以内
営業時間:月〜土 AM10:00〜PM11:00 (ラストオーダー PM10:00) 、
日・祝 AM10:00〜PM10:00 (ラストオーダー PM9:00)
定休日:
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初台オペラシティ/LES CINQ SENS(1):苺のショートケーキ

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地元中の地元であと一件足を運んでおきたかったのが、このレ・サンク・センス。元ポン・デ・ザールですね。よく東急フードショーのジスウィーク1にも出店していました。常連って言っていいんじゃないんですかね。そうそう、今日現在も出店中ですね(8/17(木)〜8/30(水))

本店は初台駅前にあるオペラシティの2Fにあります。種類は、さほど多くありません。毎週日曜日にはケーキ・バイキングがあります(写真参照)。1600円で90分ですね。駅の上ですから、アクセスは非常に楽です。…初台駅周辺も随分変わりましたよねえ。高校の頃(1990-1992)なんか、放課後に駅に着いた後、置場から自分の自転車を探し、通りに出すのが一苦労だったもんです。オペラシティ側の北口と、甲州街道の向うの南口とでは、印象も全く違います。南口は初台なんですけど、北口は本町なんですね。オペラシティのある場所は、厳密に言えば住所は西新宿ですが、地元の人間から言わせてもらえば、あそこはまだ新宿ではありません。セブンシティ(かつてあったんですが)の向う、要するに新宿中央公園から先が新宿である、という感覚です。

子供の頃から感じてましたが、山手通りと交差する吉野家のところだけじゃなく、この駅前の箇所にも横断歩道があると、ほんとは行き来が非常に便利なんです。

サンクはフランス語で「5」。イタリア語だとチンクなんで、声に出すのがちょっとだけ恥かしいんですが(笑)、フランス語だと、なんかThank(s)みたいでいいですよね。つまり「五感」という意味の店名です。「視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚」に訴えるケーキを。という事でしょう。イルプルーの弓田シェフもそのようなテーマの本を執筆されていましたね。代官山のお店に置いてあるんじゃないかと思うんですけど、お店で読んだ事あるのは別の本なんですよね…(笑)

個人的にもすごく興味があるんです、五感で味わうケーキ。このテーマは今年中にエントリーしたいと思います。今まで食べてきたケーキの中でこれら五感にそれぞれ響き合うケーキを主観で取り上げる予定です。ほぼ固まっているのですが、もう少しの間だけ探求の時間を。できればイデミを経験してからにしたいんですが…。



というわけで、レ・サンク・センスです。ちょっとヨロシク。

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○苺のショートケーキ - gateau fraise -(¥380)

まずはジャパン・クラシックなものから選択。北海道産の生クリームを使ったシャンティーに木目の細かいジェノワーズ。

上にはナパージュがけなしの苺に、ナパージュがけありのフランボワーズ。フランボワーズの位置がカードに隠れてしまう場所にあるため、写真ではちょっと分かりにくいかも。

結構大きいように見えます。中くらいから大、といったところ。ですが味は…普通です。幡ヶ谷のコンセントの方がコストパフォーマンスの高い分、利用し易いでしょう。

ちょっとデザイン的に似ている部分がありますね。シャンティーの搾り出し方とか。よほど美味しいジェノワーズを使っているとか、ジュレやシロップが他所とはひと味違うとかでないと、これだけシンプルな構成のショートケーキでは個性が出しづらいのではないかという気もします。

コンセントのショートケーキと比べてしまうのは、お互い店が近いというのもあるし、このエリアでこのレベルのショートケーキを食べるならコンセントかレ・サンク・センス、あるいはダリオルールあたりになると思うからです。で、自分の場合、これらのお店のちょうど中間あたりに住んでいるので、余計困る(笑)

普通に美味しいんですけどね。ゆえに、もう一工夫ほしい。あっちの店へ行くのではなく、ここのショートケーキを買いに行きたい、というような。五感の中で例えるなら、嗅覚あるいは触覚、味覚でキラリ光る何か。できれば嗅覚か味覚。これをもう一つ見いだせれば、自分は踵を返して、オペラシティへ向かう事が出来るような気がします。

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patisserie restaurant LES CINQ SENS(レ・サンク・センス)

住所:新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティビル サンクンガーデン2F
最寄駅:京王新線「初台」駅北口下車、徒歩1分以内
営業時間:月〜土 AM10:00〜PM11:00 (ラストオーダー PM10:00) 、
日・祝 AM10:00〜PM10:00 (ラストオーダー PM9:00)
定休日:
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posted by 照乃芯 at 02:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | パティスリー(未分類) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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