2006年04月17日

都立大学(八雲)/Pâtisserie Française Tadashi YANAGI(1):ジュピター、エクゾティック・ショコラ、ブリーズ・ア・ラ・マント、ドーム レジェ

さる15日の土曜日の午後、神奈川県の海老名に本店がある柳正司シェフのお店「タダシ・ヤナギ」の八雲店に行ってきました。東急東横線各駅で「都立大学」駅下車。改札を出て左、つまり北口から100mほど進んで目黒通りに出ます。信号を渡ったら左へ徒歩5〜6分。大きな通りのせいか、割と距離を感じるかも知れません。途中にはショコラ・ベルアメール八雲店があるんですね。知らなかった。今度行こうと思います。

ちなみに、ここは都立大学があるわけじゃないんですよ。今は南大沢。昔あった名残りですね。バス停とか電車の駅はそういった名残りで付ける事が多い。学芸大学も、付属高校はあるけど、大学は別の場所。だから、下目黒の「元競馬場」とかも…あ、これは「元」って付いてるか。今の府中競馬場があった場所ですね。

さて、到着したのは3時半。土曜日のこの時間でも品揃えは十分でした。今回買ったのはタイトルにある4つ。…そういえば、いつも大体4つですね。3つだと正直少し物足りないんですよ。ものによっては小さい場合もあるから。4つだと、なんかちょうどいい。別にそれで起承転結という風にうまい具合に行くわけではないんですが、一つの流れとして捉えた時、4つという数はしっくりくるような気がします。なんとなくその辺を頭の片隅においてショーケースの前で選んでいる時が、なんか愉しいですよね。

で、どうしても今日買いたくて外せないのがあった場合は5つとかいっちゃう。プラス焼き菓子、ヴィエノワとか。毎日食べるわけじゃないからイイんじゃないかな。ハハ。

残念ながら、この日買おうと事前にチェックしていたファンテジーやポミエなどはありませんでした。季節柄の問題なんでしょう(ポミエは秋冬限定だそうです)。また来た時の愉しみが出来たと思えば…

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というわけで、以下コメントです。ちょっとヨロシク。

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○ジュピター - Jupiter -(\472)

言わずと知れたスペシャリテ。グラッサージュの上に漂うナパージュの木星。ほんの少し間、我々を小宇宙の旅に連れ出してくれる魅惑のケーキです。タダシ・ヤナギのドラマティックなロードショーの幕開けです。エーブリィデェーイ、アイリッスントゥーマァーアイハー。

薄らと金粉のようなパウダーがかかっているのが確認していただけているでしょうか?
まるで木星のダストリングのような煌めきです。ロマンティックです。

土台はアーモンド風味のチョコレートスポンジが厚くとられており、上にはショコラムース、中にアールグレイのブリュレが入っています。全体的に非常に柔らかく、アールグレイがほどよい香り。使い方としてはすごく好きですね。紅茶って、やり過ぎてしまうお店に時々出逢うんですが、そういうお店の紅茶を使ったケーキって、もう二度と食べたくなくなってしまうんですよねえ。

tadashiyanagi_exotique_chocolat.jpg

○エクゾティック・ショコラ - Exotique Chocolat -(\399)

柳シェフのお勧め、レコメンドでございます。ミルクチョコレートにパッション・フルーツの酸味をプラスしたケーキ。とにかくパッション・フルーツの香りが際立つケーキです。

下からショコラ・ビスキュイ、ほのか香るパッション・フルーツの入ったショコラ・ムース、再びショコラ・ビスキュイ、ミルクチョコレートのムース、上部にパッション・フルーツのパキっとした酸味が広がるパウダーが右から左へ薄くグラデーションをかけたように振られています。これはね、後で書きますが、風流の域に達してるかも知れないです。

その上に柔らかく螺旋を描いたチョコ・プレートの装飾。ケーキとの接地面には2点、飴のしずくを打って固定してありますが、これも包括的アート・ワークの一つらしく見えるほど繊細で美しいです。俗な言い方をするなら、「丁寧な仕事をしている」と言えます。

もうね、ジャパン。これは、ジャパンですよ。
出ー会いはっ、おーくせんまんのぉ、胸さわぁーぎィ! 眩いばかりにエクゾティック。

エクゾティーイィーック……


japan.gif


すごく気にいってしまいました。酸味が素晴らしい。「味覚としての酸味」を愉しませてくれるケーキなら、例えば前回紹介したエーグルドゥースのラクテ・フランボワーズのようにいくつか出逢ってきました。

しかし、風味・香り…つまり「嗅覚としての酸味」をここまで演出してくれたケーキに出逢ったのはこれが初めてだと思います。値段も割と安いし、大きくて食べ応え十分です。

タダシ・ヤナギの入門編がジュピターなら、このエクゾティック・ショコラは実践編、とでもいいましょうか。「それではタダシ・ヤナギの放つ、魅惑の香りの世界のチュートリアルがスタートです…」という印象。これはほんとに「オススメ」そのものですよ。「買い」です。

tadashiyanagi_brise_a_la_menthe.jpg

○ブリーズ・ア・ラ・マント - Brise a la Menthe -(\472)

柳シェフの新作です!

「そよ風を思わす爽やかなミントのムースとチョコレートクレームのハーモニー」という説明があります。

下からショコラ・ビスキュイ、ショコラ・ガナッシュ、ミントをたっぷり打ったスポンジ、そしてミントのムースです。全体にツブツブが見えますね。ミントの葉を細かく刻んだものだと思います。さきほどのエクゾティック・ショコラにも共通して言える事ですが、幾層にも重ねられた縦走的な作りが印象的です。それぞれをまとめて一口で味わうと、ほどよいアンサンブルが伝わってくるのです。

上にはフランボワーズが一つ、アールのついたチョコ・プレート、その周辺を飴のしずくが打ってあります。…この飴の打ち方が、ため息を付きたくなるくらい美しいです。やはりショコラとミントの相性って抜群ですね。

ミントの爽やかな香りとフランボワーズ。ここでもやはり酸味がキーワードです。甘さは極控え目です。タダシ・ヤナギのケーキは、甘さそのものについては、割と控え目なんですね。その代わりに香りや風味を主張する。やはりこのシェフも引き算の上手い方だと言えます。

ですので、このケーキにはすごく驚くような目玉的な隠し味、といったものはないですが、こういうのはごくシンプルなのがよろしいのでしょうね。サーっと流れるような爽やかな春の風。細かく刻んだミントの葉が風でそよぐような、そんなイメージです。ここには風流がありますね。

ただですね、後で気付いたんですが、ミントムースの下、ミントをたっぷり含んだスポンジの上に何か打ってあるように見えるんですよね。それが何なのか気にはなっていたんですが、ハッキリと舌の上で確認できるほどの存在感がなかったので、判りませんでした。もう一回食べて確認したいところです。

しずくの打ち方などでは、リュー・ド・パッシーの長島シェフも同様の美しい仕事をされる方ですが、柳シェフの場合、どこかその美しさに「和」を感じさせるものがあるように思います。佇まいが十分「和」になってる。今回買った他のケーキも同様に、僕はそれらのデザインに「和」を感じました。ムースの色合いにしても、パッション・パウダーの振り方にしても。更に「香り」。言い換えれば風味。これは「和」ですね。風流とは流れる事であり、移ろう事。風流とは日本、和だと思います。

和を認める時に風流があるかないか、というのは日本人としてかなり重要ではないでしょうか。風流がないものに僕は「和」を認めるわけにはいかない、という考え方をしています。

例え和素材ではなくても使い方に風流が認められれば、それは「もはや『和』」であると。「和」っつーか、「もはや『和』」。洋菓子そのもののはずなのに、もはや『和』だね、っていう。

見るからに和素材を使っていてもそこに風流がなければ、それは「和素材を使ってみたよぉ的なケーキ」でしかないと思います。つまり方法論でしかない。処方箋では健常になった時に意味がない。和とは日本人の遺伝子レベルに内在する、土着ですね。和(精神)と洋(肉体)の融合。これが日本人のケーキではないでしょうか。風流を知ってる日本人だから出来上がったケーキ。そんな感じがします。

tadashiyanagi_dome_leger.jpg

○ドーム レジェ - Dome Leger -(\451)

この八雲店のみのラインナップ、八雲店限定ケーキです。海老名本店限定のケーキもいくつかあるそうですが、八雲限定もあるんですね。これは、両方来いという事でしょうか?(笑)

「軽めのチョコムースの中にウイスキー風味のクリームとホワイトペッパーの隠し味」という説明です。ウイスキー風味のクリーム、という部分に惹かれました。大人じゃないの。

上部にあしらった二枚の丸いチョコプレートのまだら模様が、最初に食べたジュピターのナパージュ部分をオーバーラップさせるようで、今まさに映画のエピローグに差し掛かっているような趣を感じさせてくれています。その日の体調によっては、この二つを入れ替えてもいいかも知れません。最初に結末を見せて、その後辿ってゆく、という表現方法も、映画では多く取り入れられている手法ですので。

「最初のケーキと最後のケーキとで物語の韻を踏んでいるかのような」。…この部分は井上雄彦の止め絵風でお願いします(笑)

前面に敷かれている「Tadashi YANAGI」の黒いカードがエンディングのスタッフロールのようでもある。…うん、確かに今日食べた4つのケーキは一つの映画でした。支払い合計が1795円でしたから、大人一枚1800円のロードショー・ムービーを観たのと同じ事ですね。「演出・脚本・監督:柳正司」です。ロケ地:八雲(笑)

いい映画だったと思います。


さて、ケーキの方ですが、全体的に赤っぽいパウダーがかかっていて、その中がウイスキー風味の白いクリーム。ウイスキーをよく飲まれる方なら判ると思いますが、一杯飲んだ時に舌先からサーっと広がるウイスキーの苦味といったものが、クリームの味を演出しています。ウイスキーの好きな人は最初の一口で気に入るでしょう。僕も気に入りました(笑)

全くキツくないんですが、アルコールが一切ダメな人はここで拒否反応を示すかも知れないですね。チョコムースと一緒に食べてしまえばさほど気になるレベルではないように感じるんですが、それは酒飲みの意見でしょうか(汗)

土台はアマンド・ビスキュイですね。舌先に一瞬ツンと来るような感じや、食べた後に口や喉の奥に残るスパイシーな後味がホワイトペッパーでしょう。ウイスキー好きな人は最初に一口食べた時に、チョコとペッパーの組み合わせに寛容な人には食べ終わった時に、満足感を与えてくれるんじゃないかと。派手さはないですけど、しっとり愉しめるケーキですね。

あと、最後に接客ですが、すごく丁寧です! 恐縮してしまいました。ここまで丁寧な接客はレピキュリアン以来です。


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Patisserie Francaise Tadashi YANAGI(タダシ・ヤナギ) 八雲店

住所:東京都目黒区八雲2-8-11
最寄駅:東急東横線「都立大学」駅北口下車、目黒通り沿いを左へ徒歩6分
営業時間:10:00-19:00
定休日:水曜日
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今回の総評:「和と風流について」(続きはこちらから)
posted by 照乃芯 at 01:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | パティスリー(未分類) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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