学芸大学も駅の外には降りた事がなかったので興味があったし。…いい雰囲気の喫茶店が多い町なんですよねえ。かつて『散歩の達人』で特集が組まれた時があって、今でも棚から出して読むくらい、一度訪れようと思っていた場所です。
そして、何よりリュー・ド・パッシーのシェフ・パティシエである長島正樹氏。「いい素材を使うのは当たり前、何を使うかより、どう使うかを意識します」という彼の言葉に惹かれて、是非とも味わってみたいと思っていたのです。かつて日比谷のレ・サヴールでは、現ル・パティシエ・タカギの高木シェフの下で腕を奮っていたこともあったそうで。
さて学芸大学に到着したわけですが、改札を出て左、道幅の狭い西口商店街をひたすらまっすぐ進みます。ここは非常にローカルな雰囲気を感じさせる商店街です。『まちおか』があるくらいですから。気にいってしまいました。この商店街を最後まで歩くと駒沢通りに出ます。角のローソンが目印に丁度いいですね。そこを通りに沿って右へ1分ほど。通りの反対側にはスーパーの丸正とガソリンスタンドがあります。リュー・ド・パッシーは通りに面した二等辺三角形のような狭い区画に合わせたかのように構えています。
到着したのは4時前でしたが、ショーケースにはどのケーキも万遍なく揃っていました。これは安心できますね。半分あればいいかと思っていたので助かりました。お客さんもチラホラといました。接客もとてもいい感じで、心地良く買う事ができました。
とりあえず飲み物を買いにさきほどのローソンへ行き、その後西口商店街の道をまっすぐ戻らずに右へ。向うに背の高い木々が見えています。そこが碑文谷公園です。早速公園へ向かいました。
ま、そんなわけで。本日の続きなどは一番下の「今回の総評」にてどうぞ。
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以下ケーキのコメントです。よろしくByeBye哀愁デート。
○エクレール・ショコラ - Eclair Chocolat -(¥330)このお店のスペシャリテのひとつというか、人気ナンバー1。ここのエクレールはとても評判がいいので絶対おさえておこうと思っていました。
それほど大振りではないのに、中のショコラクリームは濃厚かつボリュームに溢れていますね。柔らかいシュー皮にチョコがかかった安いカスタードのエクレアが昔から嫌いだったのですが、ここのエクレアならいくらでも食べられそうだと感じました。あ、でも、ひとつ食べ終わると、結構重たいですね。…「いくらでも」は無理かな。
ショコラティエでもないのにこれほど濃厚なチョコの味を堪能できる店も一体どのくらいあるでしょうか。食後の充足感はパリセヴェイユのそれに匹敵するものを感じました。そしてそれはこの下のケーキにも当てはまりました。
○タルト・ショコラ・アラビカ - Tarte Chocolat Arabica(¥400)このケーキはとにかく美しい!
アラビカ産のコーヒー豆を使ったショコラタルト。ショーケースの前でしばらく見とれてしまいました。他にお客がいなくなりかけたところでさすがにオーダーしましたが、オーダーしていない他のお客さんがいれば、決めかねてるフリをして、まだなお見つめ続けていたかもしれません。
ただ、このケーキに限らず、どのケーキも美しく、口に運ぶ前から「ここはイイ!」と確信に近い印象を持ちましたね。シェフパティシエの長島氏はかなりの技術をお持ちとお見受け致しました。テクニシャン大好きです!(>_<)
上面にある2平方センチほどの板チョコは店名の頭文字が入ったものですが、大体多くの店では、こういう部分って単なる紙のチップを挿す事が多いと思うんです。しかし、これはそうではありませんでした。ちゃんとチョコを使っています。しっかり固定されているので簡単にポロっと外れる事もない。ここらへんがすごい。しかも、上面に落としている飴のようなしずくが美しいです。まるで碑文谷公園の噴水の水滴のようです。陽光に照らされてキラキラ綺麗でした。あるいは『風の谷のナウシカ』の王蟲の目のようでもあるかな。
土台のタルト生地にはショコラですが、アラビカ産のコーヒー豆の風味がして、しっかり硬いサクサク生地は好みにピッタリ合います。このコーヒー味のクリームに蓋をされるようにしてタルト生地の真ん中におそらくこれもまた同様のコーヒーを練り込んだと思われるカスタードが入っていました。食後の優雅な余韻に浸りたい方はエスプレッソで締め、硬派な男性は無糖ブラックで更に押すというのがオススメでしょうか。胃の保証は致しかねますが。
そして、上の丸い板チョコとの間に挟まれているガナッシュももちろんアラビカ産のコーヒー豆が練り込まれています。濃厚な味わいですが、先ほどのエクレール・ショコラを食べた後では、むしろ程よく淡いとさえ感じてしまうくらいです。決して重くありません。
というわけで、このケーキは自分にバルザックをスルーさせた一品です。しかも見た目が綺麗なのは、ゴージャスにみせるという事ではなく、すごく洗練された美しさだという事。無駄がない。これが素晴らしかった。細工に走るケーキを見かける事がありますが、このお店のケーキは余計な仕事はまずしない。そんな印象を持ちました。
○苺のミルフィーユ - Mille f
Feuille au Fraise -(¥380)当初ネットで調べたらここのミルフィーユは「ショコラ」のミルフィーユらしかったのですが、実際にお店に並んでいたのは「苺」のミルフィーユでした。今の季節だからでしょうか。別にここらへんについてはショコラでも苺でもどっちでもよかったので、気にはなりませんでした。ミルフィーユであればそれでもう僕には。
上に小振りな苺が乗っかっていて、フイユタージュに挟まれたクリームの中にスライスされた苺が入っています。縦方向の重層的な構造がミルフィーユというものですが、高さはやや低め、その代わり奥行きっていうか、長いなと。
カラメリゼされたフイユタージュに、カスタードはバニラビーンズがはっきりと見えるくらいしっかり入ってるんですけど、コクがあります。コクがあるのに卵臭さはまるでなし。一方、苺が結構多い分、カスタードの量はそれほどありません。しかし、その質感は「粘り気があるな」という気がしました。どういうカスタードなのでしょうか、これは。
フォークを一気に下まで入れても崩さずに食べる事ができるのはきっとそのおかげでしょう。ミルフィーユの構造上の欠点をうまく補修してある、といった印象です。もちろんゆっくりフォークを入れてしまうとそれなりに崩れますから、ミルフィーユを食べる時は雑念を捨てて一思いにフォークを入れるのが正攻法じゃないでしょうか。好みとしてはカスタードに苺も何も入れていないシンプルなものが好きですが、このミルフィーユも十分美味しいです。季節によって多分、ショコラだとか栗だとかいろいろ変わるんでしょうね、きっと。それはすごく愉しみです。
ここのところスカされまくってたので、なんかようやくミルフィーユに再会できた、逢えたね!っていう感じで、僕の心の垣根には赤いスイートピーが咲きましたヽ(゚∀゚)ノ
○苺のショートケーキ - Gâteau Fraise -(¥400)相変わらずショートケーキシリーズが続いているのですが、ここのショートケーキは比較的大きめ。それから、スポンジとスポンジの間のクレーム・シャンティーの層が厚いのが特徴でしょうか。クレーム・シャンティーはやや甘め、とても普通な感じです。苺もそこそこの大きさ。ジェノワーズは特にシロップを打ってるとかいったようには見えず、普通に重ねられているように見えます。全体的にはシャンティーの存在感が強いなと感じます…が、このお店の他のケーキと比べると、リキ(力)というかこだわりみたいなものが少々弱く感じられる風にも思えるのですが、どうでしょうか。
一方、フルーツを使ったケーキといえばタルト・フリュイもあるにはありましたが、他のケーキに比べるとやや存在性を抑えられてしまっているように見えてしまったので、今回はスルーさせていただきました。
どちらかというとこちらのお店は、フルーツは脇役で、あくまでクリームをメインに据えたケーキ作りをしているように感じましたね。そのための様々な素材をいかに使うかを意識し、追求されているんだろうなと感じます。…フリュイといいながら、フルーツ系にはあまり腕をおフリュイにならないのか…な、あっスイマセン!ナマ言ってスイマセン!オヤジギャグ使ってスイマセン!!(笑)
ま、それはともかくですよ、ショートケーキも美味しいですけどぉ、他のケーキに比べると特に濃い仕事は感じない、控え目な印象なんですね。悪くいえば凡庸というか。やっぱりコーヒーやショコラを使った「濃いクリームを駆使する仕事」というのがこのお店の持ち味といっていいのではないでしょうか。もちろん、それはそれでとても好きですよ。それだけでお店に通う価値があります。
ただ、なんていうんだろ、なんか、濃いクリームを駆使する仕事をするタイプの人には、いたってシンプルなショートケーキは、いささか腕を見せづらいのかな…なんて思ったり。かといって重たいシャンティーってのも、ちょっとアレですからねえ。ハハ。
それにしても、そういう個性や特徴を判断する上で、やっぱりショートケーキっていろんなものが見え隠れしてきますね。時に逆説的にそれを証明してくれるんです。例えば今回のように。スペシャリテでのみ判断するのではなく、その他のケーキからシェフの方向性、哲学、モットー、といったものを伺い知る、というんですかね。
このショートケーキシリーズはやっぱり面白いなと思ってます。もうしばらくやってみるつもりです。
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(今回の総評)
碑文谷公園は桜が咲き始めていました。いつもの如くテーブルがあるかどうか園内をグルっとひと回りしてみましたが、どうやらなさそうなので、適当にベンチに座って、ケーキの写真だけは撮って帰ろうと思いました。その後もお茶を飲みながら5時の鐘が鳴るまでしばらくマッタリとしていました。落ち着いたいい公園なんですよ、これが。
このお店は、ショコラ、コーヒー、アーモンドといったものを主に得意としているんだろうなあというのが味やラインナップからよく伝わってくるんです。そして、ショーケースの中のケーキひとつひとつが美しいなあという印象が強く残りました。
普段参考にしている『東京スイーツ』という昨年のムックに掲載されていたフロマージュなどは、決して洗練されたデザインとはいえない素朴な外観だったのに、ショーケースの中に並べられたフロマージュは一年の時を経てものすごく洗練されていました。もう30代後半になろうかという年齢の方ですよね、長島氏は。なのにまだデザイン力が上がっているというのは、本当に特筆すべき事だと思います。
フォルムの美しさ、という点ではパリセヴェイユを思い浮かべるのですが、あちらは非常に女性的なフェミニン・カーブと香しいフェロモンを放っているのに対して、リュー・ド・パッシーはとても男性的な感じです。男性の仕草に時折うかがう事の出来る美しさ、男の指先の美しさ、みたいなものがあるような気がしました。今さっき挙げたフロマージュも今回買おうかどうか大いに悩んだものの、次回への愉しみにとっておく事にしました。早くまた行きたいです。
それから、これは絶対に触れておかねばならないと思ったので書きますが、なんと焼き菓子がひとつサービスで箱の上に添えてあったのです!
これがすごく嬉しかったんです!(上の写真のガレットです)
くうぅ〜。ニクイ!(笑)
大きさはシャーペンの芯のケースくらいの、上面にナッツのスライスがカラメリゼしてある焼き菓子です。「サービスしておきましたので」だなんて言わずに黙って添えてくれているこの心遣いを粋と呼ばずに何と呼べばいいものやら。嬉しい事してくれるじゃないの。サクサクとして美味しゅうございました。
それと、入り口脇にあるパンが美味しそうでしたよ。特にブリオッシュとクロワッサン。130円と160円だったかな。…これは随分と迷いましたね。予算に都合がつけばいくつか買って帰るつもりでしたが、そこを堪えて次回に回す事にしました。あのブリオッシュをパクつきつつ、碑文谷公園のカルガモを眺めるなんて、いかがでしょうかねえ。このお店はすごく好きですね。何も言わずにローテ入り決定です。ほぼ月一くらいでリピートしようと思います。
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リュー・ド・パッシー (Rue de Passy)住所:東京都目黒区中央町2-40-8
最寄駅:東急東横線「学芸大学」駅下車、
西口商店街をまっすぐ歩いて駒沢通りを右へ1分ほど。
営業時間:9:30-19:30
定休日:水